長い夏休みが終わり、新学期が始まりました。我が子は「学校が楽しい」派ですが、もしかしたら中には「学校に行きたくない」という子もいるのかもしれません。子育てをしていると「どうしてうちの子だけ」と気になったり、「何でこうなるんだろう」「ほかの子とちょっと違う?」と不安を感じたりすることはありますよね。
今日は『子育てベスト100』の著者加藤紀子氏による第2弾の最新刊『ちょっと気になる 子育ての困りごと解決ブック!』より、子どもが学校に行きたがらない理由や、「親にも子にも無理のない範囲」で今できる解決策をお伝えしたいと思います。
不登校の理由
朝、起きたばかりの子どもから「だるい」「眠い」「疲れた」などと言われたら、親としてはとっさに「何言ってるの!?」と小言の1つでも言いたくなるところですよね。けれど大人でも「今日仕事行きたくない」と思うものですし、もしかしたら「学校に行きたくない」と思う子は、一晩中ぐるぐると思い悩んで眠れないまま、つらい朝を迎えている可能性があるのです。
令和2年度の文部科学省の調査によると、小・中学校の不登校に関してはここ8年連続増加し、過去最多となっているそうです。最新のデータによると、小・中学校における不登校児童数は19万6127人で、前年度より+1万4855人で8.2%の増加。小学校ではこの5年間で倍増、そして約55%の不登校児童生徒が90日以上欠席しているなど、文部科学省も「憂慮すべき状況」だと認めています。
不登校の理由としては、
①いじめをふくむ人間関係
②朝起きられないほどの生活リズムの乱れ
③勉強がわからない
──となっていますが、これらが複合的に組み合わさっているケースも少なくないようです。
2021年5月に国立成育医療研究センターが発表した「コロナ×こどもアンケート第5回調査報告書」の中でも、「学校に行きたいという気持ち」に「(コロナによって)少し減った」または「(コロナによって)とても減った」と答えた小学生は低学年で43%、高学年で41%といずれも4割を超えています。
また、友達と話す時間について「少し減った」または「とても減った」と答えた小学生が4割以上、先生や大人への話しかけやすさ、相談しやすさについては「少し減った」「とても減った」と答えた小学生が低学年で4割以上、高学年では5割以上です。
そもそも小学生だと学校に行きづらいという気持ちをまだうまく言語化できないうえ、学校でのコミュニケーションの減少もあいまって、子ども自身つらい気持ちを抱え込んでいるのかもしれません。こうした子どもたちの思いを受けとめ、安心して過ごせるようにするには、家庭はどのような役割を担えばよいのか考えてみましょう。
ゲーム依存
「朝起きられないのは夜中までゲームやSNSなどで遊んでいるせいだ」「ゲームやネットをやめれば学校へ行けるはず」
このように考える大人は割と多いと思います。
しかし、児童精神科医の吉川徹医師によると、「ゲームやネットによる昼夜逆転は、ゲームやネット依存そのものが原因というよりも、ほかに背景となる原因がある。その現実から逃れるためにゲームやネットに依存せざるをえなくなり、その結果が昼夜逆転につながっているという複合的な関係になっているケースが多い」だそうです。
自らも中学2年生から不登校を経験、不登校の子どもや若者たちを数百人以上取材してきた「不登校新聞」の編集長・石井志昂(しこう)氏によると、「学校に行きたくない」と言う子どもたちは、「体は家にあっても、心では登校を続けていて、時計を見るのがとにかくつらい。『あ、数学の時間だ』とか、『お昼休みになった』とか考えるたびに心がどんどん削られていくような感覚になる」という精神状態のようです。
子どもは、学校へ行かないからといって怠けているわけではありません。「少しゆっくり休みたい」──その願いを親や周囲の大人が無条件に受けとめれば、「大抵の場合、数日間休めばまた学校に行くようになる」と石井氏は言います。
じゃあ、何ができるのか? 親が今できる3つの対処法
①まずは、しっかり休む
石井氏によると、不登校のサインは、子どもがそうとう我慢して打ち明けたときに出されると言います。ただし、それが一生涯続くわけではありません。
まずは「わかった」と言って子どもの気持ちを受け入れ、 その日は休ませます。基本的には風邪を引いたときと同じ対応でよく、子どものほうから行きたくない理由やいつまで休むかといった話題を話そうとしないときは、親やまわりの大人もあえて触れないようにすることが大切だそうです。
ちなみに、風邪を引いたときと同じ対応、というのは、風邪を引いたときだけ出てくるちょっと豪華なアイスクリームなど、子どもの好物を一緒に食べたり、子どもが楽しめそうな話題でおしゃべりしたり、ゴロゴロしながらのんびり過ごすことです。そうこうしているうちに、子どもには安心感やチャレンジする気持ちがチャージされていくのだそうです。
②心配しすぎるのをやめ、笑顔を意識する
「不登校になったからうちの子の人生は終わりだ」というような考えで親が心配ばかりしていると、不登校の子どもはその思いに苦しみ、傷つきます。逆に親の笑顔さえあれば安心でき、その安心があるから子どもも頑張れると思うのです。
「子どもをなんとかして学校に行かせようとすると、事態が深刻化することが多い。学校に行く・行かないではなく、子どもが今、いちばん安心できる状況は何かを考えて対応するのがベスト。『この子はこの子なりの進路を歩んでいくんだ』と親は覚悟を決めることが大事」と石井氏は強調します。
③学習の遅れについては焦らない
学校を休むことで、学習の遅れを不安に思うかもしれませんが、コロナ禍がきっかけで、オンラインの学習機会が格段に増えています。そうした情報を親が積極的に集め、親子で共有しておくとよいでしょう。
また、不登校が長期化する場合には、フリースクールが貴重な受け皿となります。フリースクールは子どもが「学びたい」と思える気持ちが出発点で、自由に自分の時間を組み立てられるので、学校に比べてその子のペースで過ごしやすい場所と言えるかもしれません。
数はまだ少ないのですが、「不登校特例校」といって、不登校生の実態に配慮した特別な教育過程をもつ学校もあり、文部科学省のホームページに掲載されています。高校になれば、N高をはじめとした多様な学び方が可能な学校が増え、格段に選択肢が広がります。過度に心配しすぎず「うちの子は大丈夫」と温かく見守る姿勢が大切です。
小学校の不登校対応は「20年遅れ」と言われています。かなりショッキングな事実ですが、なぜ小学校は対応し切れていないのでしょうか。また最近では「ブラック校則」も問題視され始めました。そうやってさまざまな点からひもといていくと、忙しすぎる教員たち、また学校現場での理不尽さやひずみのようなものを敏感に察した子どもたちが、行きたくなくなってしまうというケースが増えているのかもしれません。
「『不登校は炭鉱のカナリアみたいだ』と言う人がいます。炭鉱にカナリアを置いておくと、炭鉱の中でガス漏れが発生したとき、カナリアがいち早く鳴いて、「ここは危険だ」と教えてくれるのだそうです。
学校で苦しんでいる子たちは、学校の中で起きているひずみを、自分の体を通して「行けない」と表現しているのでしょう。その声にもっと耳を傾けてみると、確かに学校が今の社会から取り残されているところや、学校自体のひずみなんかがよく見えてくるんです。親御さんも今の学校はちょっときついなと、そろそろ気づいているのではないでしょうか」
台湾の天才IT大臣のオードリー・タン氏も、自身が不登校であったことを告白していますし、不登校新聞でも演出家の宮本亜門さん、タレントの中川翔子さんなど、多くの著名人が自らの不登校体験を語っています。
不登校も成長のしかたの1つ
最後に、石井さんからの親御さんへのメッセージを記します。
「不登校も成長のしかたの1つだと思っています。不登校を経験した子たちは、人より多く悩み、苦労したかもしれないけれど、今は一生懸命自分の人生を生きています。親御さんが『うちの子は大丈夫』と思えたら、子どもは安心して休むことができます。『今休んでも大丈夫』と思って、温かく見守ってあげてください」世界中で多様性の尊重が叫ばれる今、子どもたちの受け皿となる学校のあり方や学習スタイルは、まだ多様とはいえません。しかし、コロナ禍がきっかけで、子どもが学校に行けなくなっても、オンラインでの学習機会は増えています。さまざまな新たな学びの場所や情報を調べ、親子で共有しておくことも、子どもの安心感につながるでしょう。
毎日子育てをしていれば、「つらい」「やめたい」「ムカつく」「キレそう」「限界」などなど、ネガティブな感情は誰にだってあります。親だからって完璧じゃないから。でも、どうせなら、お互いなるべくハッピーでいたい。山あり谷ありの「谷」のときにも、親子がもっとラクに、笑顔で過ごせる時間が増えますように。
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