パリオリンピックのバスケットボール男子日本代表は、自力で48年ぶりに出場。
世界最高峰で戦う渡邊、八村に加え、冨永、河村と次世代を担う選手たちが集結し、史上最強と言われていた日本代表。
そんな日本代表を指揮したのは前回大会で女子を銀メダルへと導いたトム・ホーバス監督。
彼はどうやって日本バスケのレベルを引き上げたのか。彼の哲学に触れてみたいと思います。
バスケットボールの指揮官と会社の管理職は似ている
ホーバス監督は近著『スーパーチームをつくる! 最短・最速で目標を達成する組織マネジメント』(日経BP)で、バスケットボールファンのみならず、ビジネスパーソン必読の「組織マネジメント」について解説しています。
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来日したのは1990年。トヨタ自動車に所属しバスケットボールをプレーしていたのですが、昼間は海外マーケティング部で英語版の社内報作成などを担当していたそうです。男女の日本代表チームの監督を歴任したホーバス氏にとって、この経験は日本人の気質をよく理解したチームづくりに一役買っているといっています。
バスケットボールの指揮官と会社の管理職の役割は似ているそう。チームで仕事をすることは、バスケットボールのチームスポーツと同じ。ホーバス氏は近著『スーパーチームをつくる! 最短・最速で目標を達成する組織マネジメント』(日経BP)で、チームづくりの要を次のように語る。
バスケットボールチームも会社のプロジェクトチームも、ただ能力のある人を集めれば、成果が上がるわけではありません。適材適所に人を配置し、集団としてどれだけ力を発揮できる体制を整えられるかが勝負です。
パワハラ回避の秘策は「コミュニケーション」
ホーバス監督の指導の核は「コミュニケーション」です。
選手の力を引き出すために選手とコーチが互いにリスペクトし、その間に「橋」をつくってお互いを知る。
そんなコミュニケーションがあって初めて、全員が同じ方向を向いて一蓮托生となることができます。
そのためには時に厳しいことを言わねばならない場面もありますよね。
だが「パワハラ」と言われるリスクを考え、会社組織では、部下とのコミュニケーションの取り方に気を遣う上司も多いでしょう。
そんな現状に対して、コミュニケーションに重きを置くホーバス監督はこうコメントしています。
一方的、かつ頭ごなしに命じるようなやり方だと、パワーハラスメントだと言われかねないので当然かもしれません。しかし、私からすれば、相互のコミュニケーションがきちんとできてさえいれば、パワハラのような問題にはならないのではないかと思います。
きちんとコミュニケーションとるのも大事だし、自分の行いがブーメランになってないか、自分を客観的に見ることも大事ですよね。
「キャプテン」は中間管理職
コミュニケーションを円滑に行うために重要となるのが、監督と選手との架け橋となる「キャプテン」の存在です。
ホーバス監督がキャプテンに求めるのは、「決められた時間にオンタイムで来ること」「努力を続けること」「集中力を高く保つこと」だという、シンプルな3つのフィロソフィー(哲学)です。
日本代表のように背景の異なる人材が集まるチームで、全体が「同じ絵」を見られるようになるには、シンプルなフィロソフィーを共有して、ファンダメンタル(基礎的)トレーニングを繰り返し行う必要があるといっています。
日本の企業で言えば「部長」のような役割だと思います。部長がみんなを見渡せる席に座りますよね。チームのみんなと関係を築けて、誰とでも話ができなければいけません。無口だけどいい仕事をする仲間に目を向けなければいけません。当然ですが、経営陣とも話をする必要があります。
多くの責任を担わなければいけないポジションで、とても厳しい仕事が山積みになっています。
試合前に「選手だけのミーティング」を開く理由
キャプテンには最も厳しく接する一方で、みんながリーダーの自覚をもって、チームにコミットしてほしいとも語っています。
選手の自主性を育てるために、試合前には選手だけのミーティングを設けている。それをリードするのはキャプテン。
選手の考える幅や発言機会を増やし、選手の自立を促すことは組織力の強化の一助となっていたそうです。
企業でも、上司がいる場と、現場の社員だけの場では話す内容が全く違うはずです。
10分程度のミーティングでも、実務を担う現場の社員が互いを信じ、結束するための時間となります。
すぐに達成できてしまう簡単な目標はダメ
ホーバス監督がチームづくりをする際に、最も大切にしているのが「目標の設定」。
これこそがチーム作りの原点であり、成功を収めるための肝だそう。
しかしすぐに達成できてしまうような、簡単な目標ではいけないとホーバス監督は釘を刺します。
目標を立てる時には、競合他社の強みを知り、それを上回ることを目標とすべきなのです。
それをせずに漫然と目標を立てているようでは、奮起を促すことにはなりません。
社員たちを「心地のよいところ」から追いやって、上を目指させることが大事なのです。
高い目標を達成するためには「こういう目標にすると決めたから従いなさい」というのではなく、大事なのは心から信じること。
代表チームの選手たちはホーバス監督が説明する戦略に対して、声に出して「信じています」と言うそうだ。
口に出して初めて、全員が同じ船に乗って共通の目標へ向かうことができるという。
人を自由自在に操る魔法の言葉や、チームが急に強くなる特効薬などない。
組織マネジメントに悩みを抱えるビジネスマンには、本書で語られているホーバスジャパンのチームづくりの秘訣が、解決のヒントとなるかもしれません。
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